Mike Oldfield「Tubular Bells」: 便利になりすぎた製作環境だからこそ知っておきたい!2400回の多重録音を成し遂げた超名盤!
by 関口竜太 · 2019-06-05
おはようございます、ギタリストの関口です。
1973年のプログレッシブ・ロックというのはまさに全盛。あっちを見渡せばプログレ、こっちを見渡せばプログレと…2019年を生きる筆者からすれば理想郷と勘違いしそうな光景が広がっていたんだろうなと思いを馳せずにはいられないのですが…
現在はDTM(デスクトップミュージック)というCubaseやLogicといったDAWソフトを使い個人でも家のパソコンでクオリティの高い音楽製作を楽しめるという時代です。
このことを念頭に置くと’70年代当時の製作環境というのは今の便利さを知った後からすればとても生き辛かったようにも感じます。
そんな中、時代に逆行するようにレコーディングを行い、結果それがプログレとして留まらないセールスを記録した名盤があります。
今日はそちらのご紹介です。
Tubular Bells / Mike Oldfield
Mike Oldfield(マイク・オールドフィールド)はイギリスのミュージシャン。今日ご紹介するこちらの「Tubular Bells」が世界中で大ヒットしたことで知られるプログレッシブ・ロックの先駆者の一人です。
経緯
イギリスのカンタベリー・ロックバンドSoft Machineの創設者として有名なKevin Ayers(ケヴィン・エアーズ)がSoft Machine脱退後、ソロ活動へ転向します。ここでバックバンドとしてベースを弾いていたのがMike Oldfieldでした。
ケヴィンがソロバンドを解消すると次にマイクが続くようにソロ活動を開始します。ケヴィンから渡されたトラックレコーダーで作られ「Opus One」と名付けられたそのデモテープが、イギリスの実業家Richard Branson(リチャード・ブランソン)の目に止まり本格的なレコーディングに乗り出します。
驚異の2400回多重録音
当時のマイクがどんな想いでこの曲を作ったのか、それは計り知れないことでした。もしかしたら今でいう同人に近い、自分の好きな音楽を追求することこそ原動力だったのかもしれません。
ですがこの「Tubular Bells」のもっとも恐ろしいところは’70年代前半という個人向けトラックレコーダーがようやく進歩し出した時代に(おそらく1トラックか2トラック録音が限度だったはず)、スタジオで実に2400回という多重録音と4度のマスタリングを経て、たった2曲「パート1」と「パート2」に分けた合計50分弱の大作を作ったという点です。
そしてそれより恐ろしいのはそんな実験的大作を作り上げたマイク本人の執念だと僕は思います。
実業家ブランソンの立ち上げた「ヴァージン・レコード」というレーベルは、後にSex PistolsやCulture Clubも所属するイギリスを代表する人気レーベルの一つへと成長するのですが、当初はイギリスの片田舎にあるしがない新米レーベルで、そこの第一号がこの「Tubular Bells」だったに過ぎません。
多彩な楽器を聴けるプログレ源流の一端
現在のポピュラーミュージックでは、レコーディングで使用される楽器の数はとても多く音源を聴く限りでは全然聞こえてこなくてもユニゾンさせ倍音を得るような形でも様々な楽器が録音されています。
この多重録音の究極形と言えるのが「Tubular Bells」で、後々のシンフォニック・ロックへ与えた影響も想像に難くないのは事実です。
さて、レコーディングのメンバーはマイクを含め全部で8人いましたが、ドラム、コントラバス、フルート、あと4人はすべてボーカルやコーラスといった声での演出でした。
すなわち音源から聴こえてくる、
ピアノ(グランドピアノからホンキー・トンクピアノまで多様)、グロッケンシュピール(鉄琴)、オルガン(ハモンドからメロトロンから電子オルガンまで多様)、ベース、エレキギター、アコースティック・ギター、ティンパニ、スパニッシュ・ギター、マンドリン、バグバイプ(風のギター)、そしてチューブラーベルと、あとは全てマイクによる演奏というのだから驚きです。
もはや理解が追いつかないレベルだと思います。
楽曲全体を通してこれらを順に楽しめるのですが、何と言っても「パート1」20:18〜からなるクラシカルなテーマに沿って一本ずつ楽器が増えていくパート。ご丁寧に次はなんの楽器による演奏かナレーションによる説明まで付いています。
そして「Tubular Bells」と呼ばれるその瞬間こそ、このアルバムを聴く真の意味が詰まっています。鳥肌モノです!
歴史的大ヒット
こうして片田舎の小レーベル第一弾レコード「Tubular Bells」は1973年5月に発売され、7月に全英アルバムチャートで31位におどり出ると、9月にはトップ10入り。
同年、映画「エクソシスト」のテーマ曲に採用されると、翌年10月には実に1年4ヶ月という期間を経て見事1位になります。この時、マイクの2ndアルバム「Hergest Ridge」が「Tubular Bells」によって1位から蹴落とされるという皮肉めいた事態が起こります。
その後、「エクソシスト」のヒットを受けシングルカットされるも版権問題でマイクの演奏ではない、アレンジされたものがリリースされたりと、音楽家としては不満な代償も少なからずあったようですが、かくして「Tubular Bells」は全世界で1800万枚を売ったベストヒットアルバムとなりました。
そこから事あるごとに「Ⅱ」は製作しないのかと言われ続け、実際マイクが「Ⅱ」をリリースするに至ったのは1993年。実に20年の時が経過しておりそれはまた別の機会のお話とさせていただきます。
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関口竜太
東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。
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