King Crimson「THRAK」: 進化の過程で恐竜になったプログレ哲学。

こんにちは、ギタリストの関口です。

本日もプログレ書いていきますが5大プログレの一角が平成に残した名盤です。

THRAK / King Crimson


Thrak

King Crimsonはイギリスのプログレッシブ・ロックバンド。こちらは二度目の復帰後の11thアルバムです。

第3期〜第4期のKing Crimson


アルバムをご紹介する前にそこまでの経緯を話さないといけません。

1973年「太陽の戦慄(Larks’ Tongues in Aspic)」から、1974年「暗黒の世界(Starless and Bible Black)」「レッド(Red)」までの3枚はRobert Fripp、John Wetton、Bill Brufordによる最強のラインナップと言われた第3期で、King Crimsonと言えば1stアルバムかこの第3期メンバーの印象が強いです。

それでも最後「Red」のころには、ジャケットを別撮りしたというエピソードが残るほど三者の関係は冷え切っていました。

 
第3期ラストアルバム「Red」。

King Crimsonはこの「Red」を最後に一度解散をします。

結成からバンドの核であったRobert Frippは引退も決意しますが、再びバンド活動を始めたフリップが目を付けたのはかつてのメンバーBill Brufordを通して知り合ったAdrian Belew(Gt, Vo)、GenesisのPeter Gabrielを通して知り合ったTony Levin(Ba)でした。

3人は当初「Discipline(ディシプリン)」というバンド名でライブを行なっていましたが、いざ音源をリリースするに当たり商業的観点からバンド名をKing Crimsonに改名します。これが事実上の再結成です。

そして元のバンド名「Discipline」はそのままアルバムのタイトルに起用されます。この当時のクリムゾンは「Red」のころのような陰鬱さはなく、16分のノリを活かしたエスニックで明るい音楽性。一方で「Indiscipline」など過去のクリムゾンの面影も覗かせた名作となりました。

バンドはその後「Beat」「Three of a Perfect Pair」とアルバムをリリース。1984年に二度目の解散。この期間が第4期「ディシプリン・クリムゾン」となります。

二度目の再結成とダブル・トリオスタイル


ここからが本題です。

10年の歳月を経て1994年、King Crimsonは二度目の再結成を果たします

そのとき発表されたのが今日ご紹介するアルバム「THRAK(スラック)」なのですが、この前にミニアルバム「VROOOM(ヴルーム)」をリリースしておりこれがアルバムの前身となります。フリップからは「リハーサルテープに過ぎない」と言われていますが10年待たされ枯渇したファンからすれば恵みの水であったのは違いありません。ATB「平成プログレベスト」では「VROOOM」は49位にランクインしています。

ここでクリムゾンが提示したバンドスタイルは前代未聞、ダブル・トリオ編成でした。

ダブル・トリオ、つまり3×2ということです。パートがバラバラの6人ではなくギター、ベース(チョップマンスティック)、ドラム・パーカッションが二人ずついるという挑戦的なものでした。

メンバー


  • Robert Fripp – Guitar, Mellotron
  • Adrian Belew – Guitar, Vocal
  • Tony Levin – Bass, Vocal
  • Trey Gunn – Chopman Stick, Warr Guitar, Vocal
  • Bill Bruford – Drums, Percussion
  • Pat Mastelotto – Drums Percussion

Warr Guitar(ウォー・ギター)とはタッピング演奏を基本とした多弦ギター/ベースのような楽器。

ニュータイプ:ヌーヴォ・メタルと現代に生きる「恐竜」。


フリップが「90年代のクリムゾンはヌーヴォ・メタル・クリムゾンだ」と提言した通り、1994年にリリースされた「THRAK」は非常に攻撃力の高いアルバムになりました。「Nuovo(ヌーヴォ)」=New, Neoと同義ですがKing Crimsonが生み出した新たなメタルの提案です。

衝撃的なツインドラムという編成もいざ音源を聴いてみれば左右に振られたパンから発せられる異なるビートは新感覚で、かつフリップによるサウンドスケープがマッチした結果不自然さは微塵もありません。

なんならDTMでも8ビートに16のパーカッションを幾重にも重ねるようなことは90年代には音楽の常識になっていたし、Trey Gunnのウォー・ギターも、それをツインベースともトリプルギターとも見立てられるシームレスな汎用性を示しダブル・トリオ編成という言葉とは裏腹にすっきりとした音像を生み出しました。

ここまで新しいことをしてもアルバムが指示されたのは、かつてあった第3期の「Red」に通ずるKing Crimsonが戻って来たからに他なりません。

「言ってしまえば方言が同じ」と語るフリップの言う通り、一度目の解散から20年という時を経て「最強ラインナップ」時に作っていたクリムゾンサウンドが帰って来たわけです。しかも過去に固執せずプログレッシブな姿勢を保った上で、やはりというか70年代のクリムゾンへ戻って来た、これは意味のあることです。

そしてこのアルバムに収録されたヒットソング「Dinosaur」はその名の通り恐竜を歌ったものですが、これも「過去の恐竜」を歌っているのではなく自分を恐竜と見立て今現在を生きる、二度も解散したのに今尚復活し戻ってきた恐竜自身の歌です。

なんで滅びたのかは自分がよく知っているし、いずれ成る化石も今尚自分の体に息づいている。そうやって聴くとポップでハードなロックソングに壮大な時間の流れを感じます。

バンドの誕生と成長と死すらも超えてKing Crimsonが打ち出した「THRAK」は生命力に溢れた名盤です!

関口竜太

東京都出身。ギタリスト、音楽ライター。 ​14歳でギターを始め、高校卒業と同時にプロ・ギタリスト山口和也氏に師事。 ブログ「イメージは燃える朝焼け」、YouTube「せっちんミュージック」、プログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Mind Over Matter」を展開中。2021年から『EURO-ROCK PRESS』にてライター業、書籍『PROG MUSIC Disc Guide』にも執筆にて参加。

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1件の返信

  1. dalichoko より:

    これは私も大好き。CDも持ってます。
    素晴らしいアルバム。完成度高いと思います!
    (=^ェ^=)

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