新たな門出に。挑戦と探究心を忘れないSteve Vaiの音楽。
おはようございます、ギタリストの関口です。
桜が色づきだす季節です。
毎日どこかで卒業式が行われていて、いつもよりしゃんとした格好で緊張気味に親御さんと歩く子どもの姿が飛び込みます。
思い返せば卒業式などはもう大分昔の話になってしまいますが、暖かさに誘われたように出会いと別れの季節が訪れるのは実に風流です。
今日は春らしいジャケットのこちら。
Real Illusions: Reflections / Steve Vai
Steve Vaiは、アメリカのミュージシャン。ギタリストでありソングライター。
幼少時代に4歳年上のJoe Satorianiに弟子入り。
その後アメリカの音楽学校の名門バークリー音楽院に入学。アメリカで前衛ロックを掲げ、ユーモラスと政治批判の下に音楽の進歩に貢献したギタリストFrank Zappa(1940-1993)の門下生となります。以降、彼の門下生の中では最も商業的セールスを記録したとされています。
音楽性
スティーヴをプログレというくくりで紹介するにはプログレと言う言葉が抱えられる許容をあまりにもオーバーしているとも思えます。HR/HMを基調にしたギターロックを展開しながらもリディアン・スケールやミクソリディアン・スケールなど浮遊感漂うギターアプローチが有名。
妻が手入れをしていた花壇のバラから作曲アイディアを得たり、息子の声をサンプリングして丸々一曲作ってしまうほどの奇人ぶり。日本を訪れた際に三三七拍子のリズムに興味を持ちそのまま「San-San-Nana-Byoushi」としてボーナストラックに採用してしまうなど音楽的エピソードも豊富です。
シタールを使ったオリエンタルな作風やストリングスによる壮大なバラードなど、シンフォニックを書き上げるアレンジ術も天下一品で、組曲、変拍子などプログレッシブな要素も満載。むしろSteve Vaiという人物から音楽をひねり出した結果がそれらだと言っていいと思います。
自身が使っているIbanezを通じて7弦ギター開発にも携わっており現代ロック音楽の歴史を紐解くにも重要な人物です。
コンセプトアルバム三部作
今回ご紹介するReal Illusions: Reflectionsはスティーヴがストーリー式のコンセプトアルバム三部作を掲げたその第一作目。
インタビューによると時系列はバラバラで、肝心な内容も「主人公が女神パンポシュと教会建設によって訪れた町に関するストーリー」とくらいしか見えておらず、いくつか登場人物がいたりはするようですが全てはスティーヴの頭の中です。
1990年発表の「Passion & Warfaire」の頃には自宅にテントを張りその中で瞑想したり自分にしかわからない言語で日記を付けていたりするなどしていたようなので完成したとして常人に理解できるストーリーなのか疑問ですが、そこを理解してやりたいという不思議な魅力が詰まっていますね。
なお2012年には第二作となる「The Story Of Light」がリリースされています。
参加ミュージシャン
- Steve Vai – Guitar, Vocal, (Everything Else)
- Billy Sheehan – Bass
- Jeremy Colson – Drums
- Tony MacAlpine – Keyboard, Guitar
- Dave Weiner – Guitar
深みにハマるSteve Vaiの世界観
初っ端#1「Building The Church」ではイントロから32分の両手タッピング(それもシンセサイザーとのユニゾン!)というギターフリークも唸る開幕を知らせてくれます。7弦ギターのヘヴィなリフと重いアプローチながら色彩に溢れた音楽性はこの曲一つからでも存分に伝わるでしょう。ドラマ「医龍」のテーマソング。
#4「K’m-Pee-Du-Wee」ではブルージィな一面も披露。子どものころは「みんながみんな当たり前のことをする」という理由からブルースが嫌いとされていましたが現在は大好きな模様。自然の中で人目も気にせずはしゃぐ妖精のように自由奔放なギターを聴かせてくれます。
#6「Freak Show Express」は今アルバムベストバウトとも言えそうな一曲。あえて「ベストバウト」なんて呼んでるのは曲から察していただきたいと思いますが、息もつかせぬプログレッシブの奥州で7分弱があっという間に過ぎてしまいます。
アルバム7曲目はスティーヴにとって毎度バラードの指定席。収録された#7「Lotus Feet」はオーケストラをバックに演奏した言わばライブ版なのですが「嘘でしょ?」と言いたくなる名曲です。
ボーカル曲もスティーヴが歌う形で数曲収録されていて今回は#2,#5,#10,11。中でもオススメは#10「I’m Your Secrets」と#11「Under It All」。
#10はアコースティックとパーカッションで終始穏やかな一曲。
続くラストナンバーの#11は一転ヘヴィでテクニカル、途中登場人物(人とは限らず「alive」や「dead」などの概念だったりします)と思われる数人の語りも入る壮大なプログレナンバー。個人的にはこれが一番好きだったり。
最後に
個人的にもSteve Vaiは大好きなミュージシャンで多感な青春時代も彩ってくれましたが今だに僕の稚拙な語彙力では形容しきれない箇所も多く申し訳ないとすら感じます。
ですが、新たな門出に新しいことに挑戦したいと思わせる探究心や欲求がVaiの音楽には詰まっていますので、この春から新しい環境に身を置く人たちにもその気持ちを忘れないでいて欲しいです。