Dream Theater「The Astonishing」: 米プログレメタルバンドによる本格ロックオペラを徹底解説!&同時期のThe Neal Morse Bandとの比較。
こんにちは、ギタリストの関口です。
2016年2月にDream Theaterが2枚組の長編コンセプトアルバム『The Astonishing』を発表しました。当時このアルバムが出た時、「彼らのそれまでの音楽とはまるで違う」という批判と「これはこれで新しくて好きだ」という肯定の賛否両論が巻き起こりました。
今日はアルバムの紹介と、同時期に発表された別のコンセプト作との比較をしていこうと思います!
The Astonishing / Dream Theater
Dream Theaterはアメリカのプログレッシブ・メタルバンド。
30年以上の歴史と三つの転機
Dream Theaterの歴史は前身のMajesty結成である1985年にまで遡りますが、デビューした1989年から大きな転機となったのは主に三つ。
一つは2ndアルバム『Images And Words』のリリース。アルバムというよりはそこに収録された「Pull Me Under」のヒットを受けプログレッシブ・メタルというジャンルが世界的に認められた功績が大変大きいです。
二つ目はヒットに恵まれず苦悩した時期を乗り越えたコンセプトアルバムとして評価が高い5thアルバム『Metropolis Pt.2: Scenes From A Memory』の時期。それまでの行き詰まりを打破した彼らの底力とこのアルバムから加入したJordan Rudessとの完成されたサウンドは、その後10年に渡って安定的な評価を得るきっかけとなります。
三つ目となるのは結成からバンドを支え続けたドラマーMike Portnoyの脱退と新メンバーMike Manginiの加入。これは直接彼らのファンでなくてもメタルファン、プログレファン両方に衝撃を与えました。
新たな編成となったDream Theaterはブレインであったポートノイが抜けたことによるショックの緩和を狙い、2011年にファンがイメージするDream Theater像へ原点回帰したアルバム『A Dramatic Turn of Events』を発表。そこからセルフタイトルの『Dream Theater』をリリースしこれからのバンドの方向性を示唆しました。
本作『The Astonishing』は彼らにとって13枚目のスタジオアルバム。ギタリストJohn Petrucciコンセプトの下、それまでの10分を超える長尺曲が6〜9曲ばかり所狭しと並ぶ作品とは全く違う、2枚組34曲という明らかな違いが表面上の数字だけでも見て取れます。
アルバム参加メンバー
- John Petrucci – Guitar
- John Myung – Bass
- James LaBrie – Vocal
- Jordan Rudess – Keyboard
- Mike Mangini – Drums
楽曲紹介
Disc1
- Descent of the Nomacs
- Dystopian Overture
- The Gift of Music
- The Answer
- A Better Life
- Lord Nafaryus
- A Savior in the Square
- When Your Time Has Come
- Act of Faythe
- Three Days
- The Hovering Sojourn
- Brother, Can You Hear Me?
- A Life Left Behind
- Ravenskill
- Chosen
- A Tempting Offer
- Digital Discord
- The X Aspect
- A New Beginning
- The Road to Revolution
Disc2
- 2285 Entr’acte
- Moment of Betrayal
- Heaven’s Cove
- Begin Again
- The Path That Divides
- Machine Chatter
- The Walking Shadow
- My Last Farewell
- Losing Faythe
- Whispers on the Wind
- Hymn of a Thousand Voices
- Our New World
- Power Down
- Astonishing
ストーリーは音楽が消えた未来のディストピアで、音楽を奏でられる素晴らしい才能を持った若者と国家との紛争や人間模様の後、和解と国家再建へ流れていく、というもの。国民にとって唯一の娯楽である“Nomacs”(ジャケットの宙に浮かぶ球体の機械、ノイズを生み出す)が物語の中心にいるのもポイントです。
34曲がDisc1と2の隔たり以外ほぼノンストップで進行していき、様々なテーマを行ったり来たりするというのはコンセプトアルバムの常套手段。途中、Disc1の#1「Descent of the Nomacs」、#11「The Hovering Sojourn」、#17「Digital Discord」、Disc2の#6「Machine Chatter」や#13「Power Down」ではNomacsによるノイズミュージックも随所に挟まっています。
ボーカル楽曲ではD1-#3「The Gift of Music」やD2-#12「Our New World」などMVも作られたキャッチーなロックナンバーの他、D1-#6「Lord Nafaryus」、#14「Ravenskill」、D2-#7「The Walking Shadow」と言った物語の情景やキャラクターの個性を切り取ったバリエーション豊かなアプローチも。
プログレメタルな曲としてはD1-#10「Three Days」、#19「A New Beginning」、D2-#2「Moment of Betrayal」などコンパクトながら変拍子とヘヴィなリフでまとめ上げた佳曲が目立ち、時にコミカルな描写で次のシーンへ繋いでいく、あくまで全体を意識した構築を展開しています。
D1-#12「Brother, Can You Hear Me?」を主人公のテーマとして、ラストとなるD2-#14「Astonishing」ではそれを引用して壮大な大団円で終幕しています。
アルバムに対する賛否と評価
長らくDream Theaterの作品を待っていたファンにとって長編・テクニカル・ヘヴィメタルの全てを一旦脇に置いたこの作品を受け入れることは難しく、戸惑うファンもいればこの試みにに賛同するファンもいるなど、意見は二分化しました。2010年のポートノイ脱退からそれでも一応追う形を見せていたファンの中でもこれをきっかけに離れるものがいたことも事実だと思います。
その上であえて言わせていただくと、そもそもプログレッシブ・ロックという音楽に対して初めから受け入れられる作品などそうそう存在しない、ということです。
どのアーティストに置いてもそうですが「この作品は聴きやすい」、「この曲ならとっつきやすい」というのはもうすでに聴き慣れたリスナーによる主観です。よく匿名掲示板のスレッドで「名曲による打線」なんてものが組まれてることもありますが、結局そのアーティストの認知度が高いほど結論は出ないものです。
事実、アルバムは時間が経つにつれ徐々に再評価の兆しが伺え、その美しいメロディライン、ボーカルであるラブリエの表現力、作品としての構築美、作品に合わせて制作されたMusicman Majestyの今作仕様のギターなどファンの心を再び取り戻すに至ります。
特設のホームページで登場人物など細かに紹介しアルバムと連動させたスマホゲームをリリースするなど彼らだからできたアプローチが実に現代らしいと個人的に思います。
類似アルバムと比較してみる
さて、この手のストーリー式コンセプトアルバムや曲というのはプログレッシブ・ロック以前から存在し、その元祖となるのはThe Whoの2ndアルバム「A Quick Oneに収録された「A Quick One While He’s Away」という9分の楽曲でこれが後の『Tommy』にも繋がってきます。1979年にはPink Floydの『The Wall』がリリースされるなど、歴史的に見てもその地位は確立されています。
今日はその中でも『The Astonishing』との比較でこちらのアルバムを取り上げます。
The Similitude Of A Dream / The Neal Morse Band
The Neal Morse Bandはアメリカのプログレッシブ・ロックバンド。
元Spock’s BeardのフロントマンNeal Morseがソロ活動から発展させたバンドで、こちらのバンドにはDream Theaterを脱退したポートノイやペトルーシと同様のスタイルを持つ若手ギタリストEric Gilletteが在籍するなど、現在Dream Theaterにとってかなり近縁な存在となります。
こちらのアルバム解説はThe Neal Morse Band「The Similitude Of A Dream」: 「天路歴程」を題材にした超大作第一弾。ノンストップで駆け抜ける106分のプログレロック!をご覧いただきたいのですが、2枚組のストーリーアルバムで、さらに『The Astonishing』と同じ2016年リリース作品のためライバル視してるのではないかと勘ぐってしまいそうなほど類似しています。なおこちらは全23曲収録。
初め、このアルバムを聴いた時「The Astonishingより好きかも…」と思ってしまったのが率直な感想。実に軸のブレないプログレッシブな構築の数々、この作品に限って言えばDream Theaterよりテクニカルな演奏。何よりポートノイのメロディアスなドラミングが妙に懐かしくなってしまいました。
The Astonishingとの比較
ストーリー
The Astonishing…Dream Theaterによるオリジナルストーリー。数百年先の未来とディストピアを描いたファンタジー作。
The Similitude Of A Dream…天路歴程(てんろれきれい)というプロテスタントの世界でもっとも読まれた宗教書が基のストーリー。出版は1678年。
演奏面
The Astonishing…あくまでストーリーと歌を重視しかつてのような超絶テクニカルプレイは身を潜めている。またマンジーニのシンプルなドラミングともマッチしていると言える。
The Similitude Of A Dream…ある意味で全員がイニシアチブを握り個性をぶつけ合うアンサンブルが特徴。どちらにしても方向性がばらけることなくまとまっている点で優秀。
ボーカル
The Astonishing…ラブリエのみ。主人公から悪役まで全てをこなし強みである表現力が豊かさを存分に活かしている。
The Similitude Of A Dream…ニールの他に、ギターのエリック、ポートノイ、キーボードのBill Hubauerなどメンバーのほとんどがリードボーカルを務めることで表現面をカバー。むしろシーンによって表情を変えられるので飽きがこない。
メロディライン、テーマ
The Astonishing…テーマを繰り返すことで曲同士の関連やシーンを紐づけるのはどちらも同じだが、曲ごとに専用のメロディを設けた作曲手法が取られているため多彩である。
The Similitude Of A Dream…多くのメロディよりもテーマの紐付けに特化しているので同じメロディが登場する頻度が多い。その分アルバム全体の輪郭は見えやすくなっている。
その他
The Similitude Of A DreamはDisc1と2の間も隙間なく繋がっていてシームレスに聴き通せる作りで、これは2枚組コンセプトアルバム全体を見ても稀で高度なプロダクションを感じることができる。
最後に
音楽的な総合点で言えば『The Similitude Of A Dream』の方に軍配が上がるのが個人的な見解です。しかし、『The Astonishing』も音楽というカテゴライズを飛び越えた芸術作品としての完成度のえげつなさで引けを取りません。
また言葉がわからない上で聴いた時『The Similitude Of A Dream』は『The Astonishing』よりもストーリーを感じにくいという点があり、これはこの作品の聴きやすさに対する代償と言えるます。
『The Astonishing』はその点楽曲だけで情景が浮かぶ工夫がいくつもなされているので、似たリリース時期と音楽性でありながらそれぞれにそれぞれの良さが垣間見れるのは非常に興味深い比較となりました。
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